極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
コンクリートの階段を上った実乃里は、龍司が開けてくれた玄関扉の中へ足を踏み入れる。

中は白っぽい廊下が奥へと延びて、T字路のようになっている。

廊下の左右と正面に、閉められた木目のドアがいくつか見えた。


下足のままで廊下を進み、龍司はふたつ目のドアをノックせずに開ける。

そして中にいる誰かに向けて、「ピザの配達だ」と淡白な声をかけた。

すると、「あっ!」と慌てたような男性の声がする。


「すみません、若頭。頼んだのは自分です」


バタバタと駆け寄る足音を聞きながら、実乃里は眉を寄せて首を傾げる。


(若頭? 龍司さんの名字がそれなの? ううん、違うよね。マスターは逢坂と言っていたもの)


若頭という言葉をすぐに理解できずにいるのは、素敵な彼を危険人物と見なしたくないという、恋愛面での感情が影響したためなのか。

けれども、ピザを受け取りにドア口に現れた男性を見て、実乃里は気づかないわけにいかなくなった。


彼は実乃里と同じくらいの年齢に見える、小太りの若者だ。

ソフトモヒカンの頭髪は金色に染められ、両眉は剃り落とされており、趣味の悪い柄物のTシャツとハーフパンツを履いている。

とてもじゃないが、会社勤めをしているようには見えない。

ヤクザ者といった言葉が似合う彼の右腕は、Tシャツの袖に隠れていない上腕の肌に、波がうねるような青い彫り物が施されていた。


(この人たちは、きっと極道だ。ということは、ここは暴力団の組事務所? そして龍司さんは怖い人たちを束ねる、もっと怖い若頭で……)


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