極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
背を向けた龍司は、後ろに佇む実乃里に片手を上げて別れを告げると、足早に進む。

道の角を曲がり、事務所とは反対の方向へ消えていき、実乃里はなぜだか喪失感に襲われていた。


(これっきりで会えなくなるわけじゃないのに、どうしてこんなにも寂しく思うのだろう。私、なんか変だ。ううん、おかしいのは龍司さんの方。微笑んで額にキスまでしてくれて、いつもと違ってた……)


通り抜ける冷たい風に、ブルリと体を震わせる。

「風邪ひくわよ」と洋子に呼ばれ、キスされた額に触れつつ首を傾げた実乃里は、店内に戻っていった。


正体不明の不安を抱えて働き、ランチタイムも終わった十五時過ぎに、それは起きた。

店の前の道路をやけに車が通ると思っていたら、パトカーのサイレンの音が近づいてきて、遠くで争っているような男たちの声もロイヤルに届いた。

店内には常連客が三人いて、窓辺に寄ると、「喧嘩か?」と外を覗いている。

そこにマスターと洋子も加わった。


実乃里は洗い物の手を止め、カウンター裏から出ると、ドアへ駆け寄る。

ガラス越しに実乃里も外を覗けば、テレビ局の名前が車体に刻まれ、アンテナを屋根につけた中継車が一台、ロイヤルの真ん前に勝手に路駐された。

大急ぎの様子で降りてきたのは、中継クルーと思しき五人の男性だ。

彼らは組事務所の方角を指差し、カメラやマイクなどの機材を担いで駆け出した。


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