極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「猿亘組でなにかあったのか?」

緊迫感のあるマスターの独り言に、実乃里はハッとする。

「まさか……」

そう呟いたら、ガラス扉を押し開け、外へ飛び出した。

後ろに実乃里を止めるマスターたちの声が聞こえたが、立ち止まってはいられない。

テレビ局の中継クルーの後を追うように、実乃里は猿亘組の事務所へと全力で走った。


事務所前の通りに入れば、すでに物々しい雰囲気であった。

交通規制が敷かれ、警察車両が十数台も連なっている。

先ほどの中継クルー以外にも、マスコミ関係者が大勢押し寄せてカメラを向けている。

近所の人たちは遠巻きに不安げに見つめ、組長の屋敷の門は大きく開かれていた。


(これは、家宅捜索……?)


私服や制服姿の捜査官たちが数十人いて、組長の屋敷や事務所内にぞろぞろと入っていく。

それに抵抗する極道たちの怒鳴り声が、建物内から聞こえてきた。

実乃里はマスコミ関係者より後ろにいるため、人の隙間にしか前方の様子は見えないが、ドスの利いた声の中に一尾たちのものも混ざっているように感じ、彼らを心配する。


(一尾さん、警察に逆らったら捕まっちゃうよ……)


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