極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
チャンネルは午後のワイドショーに合わせられ、洋子と常連客三人が深刻そうな顔で立ったまま視聴していた。

テレビは猿亘組の事務所を背景に、中継のリポーターを映していた。


「繰り返しお伝えします。指定暴力団、猿亘組の家宅捜索が先ほどから始まりまして……あ、組長です! 任意同行を求められたようです。他、数人の組員も出てきました。それぞれ別の車両に乗せられる模様です。容疑が固まり次第、逮捕されると思われーー」


麻薬密売、特殊詐欺、違法賭博場の経営など、全十六の容疑での関係各所一斉捜索だと、リポーターは説明していた。

組長の猿亘慶造は羽織袴姿で、両脇と前後を警官に囲まれて門から出てきた。

その様子が、人波に揉まれて揺れるテレビカメラに映し出される。

深い皺に白髪の眉、老いた顔をしていても眼光は鋭く、堂々たる風格で歩いているから、まるで警察を従えているかのようだ。


カメラは組長を中心に追っているが、他の極道数人もチラリと画面に映された。

その中に、白いスーツを着た斑目もいる。

相当暴れたのか公務執行妨害で逮捕されたようで、斑目の手首には手錠が光り、報道関係者を怒鳴りつけながら警察車両に押し込まれている。

現場に行くよりテレビで見た方が状況を詳しく知ることができたけれど、龍司の姿が映らないので、実乃里の不安はさらに膨らんでいた。


「龍司さんは、どこ……?」

か細い声で独り言を呟いた実乃里に、常連客である靴屋の中本が唸るように言う。


「映らなかったが、おそらく、しょっ引かれただろう。若頭だからなぁ。悪事に関与していないわけがない」

(違う。龍司さんは本当は刑事だから、逮捕されないんだよ……)


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