極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
実乃里が無言で首を横に振れば、洋子が哀れみの目を向け、勘違いの慰め方をする。


「つらいと思うけど、実乃里ちゃんは早く龍司さんを忘れた方がいいわ。この先何年も刑務所から出てこないわよ。前の若頭の八田部さんと同じように」


マスターは困り顔をして、ため息交じりに言う。


「上層部がことごとく逮捕されたら、猿亘組はお終いかもなぁ。下っ端だけじゃ維持していけまい。これまで守ってもらった下町の人間としては残念だが、悪行が公にされたんじゃ仕方ない。必要悪と言ってられない時代なのかもな……」


猿亘組とは長年、持ちつ持たれつの関係であったマスターの目には薄っすらと涙が溜まり、実乃里は頬を濡らしていた。

彼女の涙は、マスターのものとは意味が違う。

実乃里は、二度と龍司に会えないことを悟って泣いている。


(今朝の龍司さんは、様子がおかしかった。私の夢を応援してくれて、抱き寄せて額にキスまでしてくれた。あれは、お別れの挨拶だったんだ……)


これで龍司の潜入捜査はお終いで、猿亘組は解体に向かうのだろう。

彼はきっと現場にいない。

刑事としてあの場に立っていたら、裏切りを知った極道たちが激昂し、より危険な状況を生み出してしまうからだ。


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