極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
店舗は上層階がマンションになっている五階建てビルの、一階の一部を借りている。

間口は狭く、わずか十坪のスペースで、資金面において、これが実乃里の精一杯の規模であった。


外観は、ブルーレンガの外壁と、白く塗装したドアと窓枠。

黒板の置き看板には、お勧めメニューがチョークで書かれている。

ドア前に溜まった落ち葉を箒で掃いていた実乃里は、ふと鰯雲を見上げ、あとひと月半で“あの日”になると思っていた。


(龍司さんに会えなくなって二度目の秋。冬が来たら三年になる……)


三年ほど前の冬、猿亘組に一斉捜索が入った後、実乃里が予感した通り、龍司はロイヤルに来なくなった。

一度きりの記憶を頼りに、彼の住んでいたマンションを訪ねれば、エントランスの郵便受けはテープで塞がれ、引っ越した様子であった。

それでも一カ月間は、もしかすると来店するかもしれないという希望を捨て切れず、ロイヤルで働き続けていた実乃里であったが、その後は気持ちに区切りをつけて辞める決断をしたのだ。


もちろんマスターと洋子には強く引き止められたけれど、全力で夢を実現させたいという気持ちを真摯に伝えれば、なんとか理解してもらえた。

それは偽らざる実乃里の本心であるのだが、カフェオープンに向けて具体的に動き出さなければ、失恋の痛手に耐えられなかったという理由もある。

龍司との思い出が染みついたロイヤルには、これ以上いたくない……という気持ちでもあった。


猿亘組は消滅こそしていないが、規模を大幅に縮小し、組長も斑目も、ほとんどの幹部たちは今、刑務所の中にいる。

一尾たち下っ端構成員がどうしているのかは、実乃里にはわからない。


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