極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
オープンしてまだ二カ月なので、店の存在自体を知られていないのだろう。

今は我慢の時だとわかっていても、赤字続きの経営に焦り始めていた。

当初の予定では、もう少し忙しいかと思っていたので、アルバイトも一名雇っている。

その給与も負担であった。


レジカウンターの内側の調理スペースに実乃里が戻れば、アルバイトの女子大生に「店長、次なにしますか?」と問われる。

「やることなくて暇なんですけど」


彼女は切れ長の目をした京風美人で、身長は百七十センチ弱と女性の中では高めだ。

ショートボブの焦げ茶色の髪で、スポーツをやっていそうな締まった細身体型である。

けれども、中高生の時は図書委員、今は大学の文芸サークルに入っているそうで、運動は苦手らしい。

二十六歳の実乃里より七歳も若い彼女の方が、見た目は年上に見えた。


その身長と面長の顔が大人っぽくて羨ましいと実乃里は思いつつ、困り顔で仕事を指示する。


「伊藤さんには、買い物に行ってもらおうかな。シナモンとローズマリーとカルダモンを買ってきて。スパイス専門店の元町堂まで徒歩でお願い。ちょっと遠くてごめんね」

「いえ、やっとやることができて嬉しいですよ。立っているだけだと時間が経つのが遅くて、かえって疲れます」

「暇な店でごめんね……」


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