極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「いらっしゃいませ」と笑顔を向ければ、レジカウンター前に立った男性は、注文するのではなく、早口で説明を始める。


「桜テレビ東京で、十四時から放送されている番組のーー」


彼は桜テレビ東京という放送局の、平日午後の情報番組を担当しているADだという。

今、出演者数人が、この通り沿いにある店々にアポなしで入るというロケをしているそうで、cafe実乃里にも取材協力を求めてきた。

アポなしといっても、一応直前に、スタッフが確認して回っているらしい。

そう説明した男性ADは、周囲を見回し、「もしかしてお店、閉めてました?」と聞いてきた。

まだ日の高い時間だが、客が誰もいないので、その可能性を考えたのだろう。

実乃里は焦って嘘をつく。


「さっきまで団体のお客様がいて、貸切状態だったんです。ちょうど帰られたところで、一時的にこのような状況です」

「そうですか、繁盛しているんですね。お忙しいところすみませんが、カメラを入れさせてください。それで、店長さんは?」

「私が店長の木下です。テレビの取材、ありがたいです。どうぞよろしくお願いします」


落ち着いた風を装って会話しているが、心の中では興奮し、見えない位置で右手を握りしめる。

(なんという幸運。テレビで宣伝してもらえるなんて、願ってもないチャンスだ。しかも無料!)

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