極艶恋～若頭は一途な愛を貫く～
「はい！」と元気に応えたのは、木下実乃里。

二十三歳で小柄な体形、くりっとした瞳と丸顔が年齢よりも幼く感じさせる。

肩下までの黒髪はひとつに束ね、スカイブルーの七分丈パンツと白いＴシャツを着ている。

その上に洋子と同じ深緑色のエプロンを身につけた彼女は、てきぱきと料理や飲み物を客席へ運んだ。


テーブル席で新聞を広げているのは、中本(なかもと)という常連の男性客だ。

彼は四軒隣の靴屋の店主で、五十代。

新聞を畳み、「お待たせしました」と目の前に置かれたトーストセットを見た中本は、目を細めて実乃里を褒める。


「サラダのドレッシングをちゃんとサウザンアイランドにしてくれてるな。トーストは斜め切りで、苺ジャムとバターを添えて。コーヒーはブラック。客の好みを覚えるのが早いね。若いから頭が柔軟なんだな」


実乃里はこの喫茶店のアルバイト従業員で、働き始めてまだ八日目である。

客の特徴と好みを覚える記憶力には、元から自信があった。


「靴屋の中本さん、ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


名前で呼んで中本をさらに喜ばせた実乃里は、「姉ちゃん、お会計」と別の客に呼ばれ、今度はレジ前に急ぐ。

壁掛けの鳩時計がポッポと鳴き、八時を告げる。

早朝七時からのモーニングタイムは近所の常連客で賑わい、いつも通りの忙しさだ。


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