極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
その時に、ゲームセンターの営業時間は十時からだと言っていたので、開店までにはまだ三十分以上も時間がある。

おそらくは、開店準備をしていた従業員に対して、早く開けろと無理を言っているのか、それともなんらかの不満があって、拳を振り上げながらクレームをつけているのかもしれない。


それにしても、なぜ助けを求める相手が極道なのだろうと、実乃里は不思議がる。

自分なら警察に連絡するのにと思い、黙って話を聞いていた。


「本部長、俺らが行って片づけてきますので心配いりません」


事情を話し終えた小太りの若いヤクザは、高級腕時計の男にそう言った。

本部長という役職が、組織の中でどの程度の地位があり、どんな役割を担っているのかはわからないが、指示役であるのは間違いないだろう。

偉そうに足を組み替えた本部長は、鷲鼻で狐目をしている。

その目をさらに細めると、ドスの利いた声を低く響かせた。


「また半グレのガキどもか。この前の、飲み屋で暴れた一味と同じだったら、半殺しにしてやれ。うちの島で、舐め腐った真似は許さねぇ」


“半殺し”という言葉が、比喩でもただの脅しでもないように聞こえて、実乃里は青ざめる。

小太りの男とは別の下っ端が、テレビボードの引き出しから何かを取り出している。

実乃里のいる位置からはチラリとしか見えなかったが、懐にしまわれた黒光りするものは、もしや拳銃ではあるまいか。


(どうしよう。早く立ち去りたいけど、ピザのお代が……)


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