極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
おそらくは、八つ当たりだと思われる。

龍司が出かけてしまい、怒りをぶつける相手を失ったので、下っ端を怒鳴りつけたいようだ。


二山と呼ばれた若い極道は、茶髪で色黒、細身ながら腕っぷしの強そうな見た目である。

一尾と同じような刺青が、半袖シャツの袖の下に見えた。

その辺の不良よりは遥かに悪そうな人相をしている彼だが、本部長の前でオドオドと困っており、実乃里は気の毒に感じていた。


チッと舌打ちをして、怒りのボリュームをいくらか下げた様子の斑目本部長は、ガラスの天板に革靴の足を片方のせると、「まぁいい」と自身に言い聞かせるように話しだす。


「龍司は所詮、お飾りの若頭だ。組長も腹から信用してねぇから、表のシノギにしか関わらせねぇのよ。あいつのカリスマ性だけは利用してやる。構成員集めに使えるだけ使って、後はバラして沈めてやる」

(なんか、怖いこと言ってるけど……)


どうやら組織の中では、本部長より若頭の方が上らしい。

龍司が就任したのは、最近のことなのだろうか。

それが面白くなくて、斑目本部長がグチグチ言っているように聞こえるが、言葉遣いが物騒すぎる。


「四百五十円のお釣りになります。ありがとうございました……」


やっと会計を済ませることができた実乃里は、頭を下げてから逃げるように玄関へ。

配達の後には『またよろしくお願いします』と言う決まりなのだが、二度と呼ばないでほしいという思いで、蒸し暑い夏空の下に飛び出した。


実乃里が三分ほど走ってロイヤルに戻ってきたら、マスター夫妻はテーブルに隣り合って座り、食後のコーヒーを呑気に楽しんでいた。


「実乃里ちゃん、お帰り。ご苦労さん」

「外、暑かったでしょ? ありがとうね」


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