極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
口々に労いの言葉をかけてくれる夫妻に、実乃里は真顔でツカツカと歩み寄り、集金用のポーチをテーブルに叩きつけるようにして置いた。


「配達先、暴力団事務所だったじゃないですか。すごく怖かったんですよ。勘弁してください」


真剣に抗議をした実乃里だが、「怖いってことはないだろう」と、マスターに笑って流されてしまう。

洋子もいつも通りのにこやかさで、実乃里からの苦情を意に留めない様子である。


「座ったら? 実乃里ちゃんのために、冷たいレモンティーを入れておいたのよ。あら、氷が半分溶けちゃったわね。遅かったけど、迷ったの?」


レモンティーに関しては「ありがとうございます」とお礼を言い、洋子の向かいの席に座った実乃里だが、その頬はハムスターのように膨れている。

けれども、冷たく甘い液体を一気に半分飲んで息をつけば、最初に説明してもらえなかった怒りは十分の一ほどまで急降下した。


「隣のお屋敷の方だと思って呼び鈴を探したんですけどーー」


実乃里は、龍司に配達先の間違いを指摘されてから帰ってくるまでを、ざっと説明した。

斑目本部長のこともだ。

そうすれば、焦りや恐怖をわかってもらえるはずだと思ったのだが、マスター夫妻の笑みは崩れず、実乃里に対して申し訳なさそうにすることもない。


「今日は斑目さんが来てたのか。そのせいで事務所内が、ちょっとばかりピリピリしてたんだな」

マスターはわかったようなことを言って頷き、猿亘組について教えてくれた。


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