極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
猿亘組は江戸時代から続く任侠一家で、この下町を本拠地とし、他にも全国に数カ所、活動拠点を持っているそうだ。

大名屋敷のような建物は、組長である猿亘慶造の自宅。

組長は八十歳近い高齢のため、あまり出歩かずに自宅から指示を出しているらしい。

郵便であれデリバリーであれ、猿亘組になにか用事がある際は、隣の組事務所を通すことになっており、呼び鈴がなかった理由はそれだという。


組事務所も人の出入りは多くなく、常駐しているのは数人の構成員のみ。

普段の猿亘組は、この下町に静かに溶け込んでいるそうだ。


しかしながら、組織の行事ごとや組長が集合をかけた時には、あの道に何十台もの黒光りする高級車やワゴン車が連なり、急に物々しい雰囲気になるのだとか。

過去には隣町の暴力団との抗争で、銃弾が撃ち込まれる事件もあったのだそう。

それでもこの界隈で古くから商いをしている町人たちは、猿亘組を好意的に受け止めているのだという。


実乃里の頭の中では、極道イコール一般庶民の敵である。

どうしたら好意的に見られるのかという疑問を首を傾げることで表せば、マスターがコーヒーカップを片手に言った。


「俺たちは助けられてるからなぁ。陰で悪いことやってるのか知らないが、猿亘さんは昔からこの町を守ってくれる用心棒だ」


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