極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
滑らかな肌、銭湯のときめき
◇◇◇
猿亘組の事務所にピザの配達に行った日から十日ほどが過ぎ、八月も終わろうとしている。
今日は曇り空で幾分過ごしやすい気温だ。
喫茶ロイヤルの鳩時計は十二時四十分を指し、ランチ客で店内は満席である。
すっかり仕事に慣れた実乃里は、一切の無駄のない動きで配膳、片付け、接客、調理補助と、忙しく働いていた。
混み合う時間帯は、相席をお願いしている。
三番テーブルのサラリーマン風の男性客から注文を取った実乃里が、調理場の方へ足を向けようとしたら、同じテーブルでオムライスを食べ終えたところの老婦人に呼び止められた。
「実乃里ちゃん、あのね」
「はい。追加のご注文ですか?」
老婦人は、一丁隣にある極楽湯という銭湯の女将さんだ。
年齢は七十八で、腰が少々曲がっていて小柄で細身。ショートカットの髪は紫がかったグレーに染められている。
銭湯の客や知り合いに、“極楽おばさん”と呼ばれており、実乃里も自然とそう呼ぶようになった。
極楽おばさんはランチタイムの常連で、週に四、五回も食べに来る。
話好きの世話焼きで、食べ終えた食器を調理場まで下げに行ってくれたり、テーブルを拭いてくれるのはありがたいが、実乃里がどんなに忙しくしていても構わず世間話を始めるところは困ってしまう。
猿亘組の事務所にピザの配達に行った日から十日ほどが過ぎ、八月も終わろうとしている。
今日は曇り空で幾分過ごしやすい気温だ。
喫茶ロイヤルの鳩時計は十二時四十分を指し、ランチ客で店内は満席である。
すっかり仕事に慣れた実乃里は、一切の無駄のない動きで配膳、片付け、接客、調理補助と、忙しく働いていた。
混み合う時間帯は、相席をお願いしている。
三番テーブルのサラリーマン風の男性客から注文を取った実乃里が、調理場の方へ足を向けようとしたら、同じテーブルでオムライスを食べ終えたところの老婦人に呼び止められた。
「実乃里ちゃん、あのね」
「はい。追加のご注文ですか?」
老婦人は、一丁隣にある極楽湯という銭湯の女将さんだ。
年齢は七十八で、腰が少々曲がっていて小柄で細身。ショートカットの髪は紫がかったグレーに染められている。
銭湯の客や知り合いに、“極楽おばさん”と呼ばれており、実乃里も自然とそう呼ぶようになった。
極楽おばさんはランチタイムの常連で、週に四、五回も食べに来る。
話好きの世話焼きで、食べ終えた食器を調理場まで下げに行ってくれたり、テーブルを拭いてくれるのはありがたいが、実乃里がどんなに忙しくしていても構わず世間話を始めるところは困ってしまう。