極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
モーニングタイムは八時半までで、いったん店を閉め、その後は十時半から十九時までの営業である。

この店の時給は、都が定めた最低賃金。

接客と簡単な調理に掃除、買い出しから近所への配達など、ひとりきりのアルバイトである実乃里の負担は大きい。

待遇や労働環境からいうとブラックな感は否めないのだが、彼女は明るく前向きに張り切っていた。


(朝早くて眠いけど、このくらいへっちゃらだよ。体力には自信があるし、なにより夢を叶えるためなら私は頑張れる)


実乃里の夢とは、カフェを経営することである。

いつか叶えたいその夢のために、短大卒業後は、あちこちのカフェを渡り歩くようなアルバイト生活を送っている。


多くは若者向けの近代的な雰囲気の店なのだが、昔ながらの喫茶店にも興味があって、この店で働くことにした。

古い店は、常連客の舌と心を掴む何かを持っている。それを学ぼうというのだ。


一カ所に定まらないフリーター生活を、褒めてくれる人はいないけれど、実乃里としては自分のカフェを開く前の修業期間のように思っている。

夢に向かってまっしぐらの彼女は、生まれてこのかた恋人はなし。

恋愛に興味がないわけではなく、好みの男性になかなか巡り合えずにいる。


なかなか可愛らしい顔立ちをしていても、小柄で童顔のせいか、よく学生に間違われた。

常に薄化粧であるのも、その理由かもしれない。

色恋目的で彼女に声をかける男性は、学生服を着た年下ばかり。

実乃里の好みは、渋みを感じさせる年上男性なので、これまで恋のチャンスに恵まれなかったのだ。


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