極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「実乃里ちゃん、銭湯を手伝ってあげてくれ。こっちは洋子とふたりでなんとかするから」
「いいんですか?」
「ああ。たぶん大丈夫だろう。下町の商売人は、助け合ってやってきたんだ。困ってると言われたら、協力するさ」
心の広いことを言ったマスターだが、その直後に、「実乃里ちゃんはうちのバイトだ。毎度のことなら断るよ」と小声で呟き、カウンターへ引き返していった。
マスターの小声を聞き取れなかった極楽おばさんは、嬉しそうにしている。
「さあ、早く行かなきゃ。ご馳走さん。実乃里ちゃんはゆっくり仕度しておいで。一時までに来てくれたらいいから」
(十三時までって、あと十分ほどしかないけど……)
今日は食べ終えた食器を下げてくれずに、極楽おばさんは急ぎ足でカウンターへ。
マスターにお代を払って、すぐに帰っていった。
実乃里は空いた食器をトレーにのせて下げつつ、ドアベルの鳴り止んだガラス扉をチラリと見る。
(今日は会えずじまいか……)
誰に会えないのかというと、龍司である。
彼が猿亘組の若頭だと知り、恋破れたような気持ちでいる実乃里だが、素敵だと思う心は健在である。
龍司は週に二、三度やって来て、決まって卵サンドを注文する。
モーニングタイムの来店がほとんどだが、たまにランチの終わり頃に現れることもある。
その注文もやはり卵サンドで、よほどの好物だと思われた。
「いいんですか?」
「ああ。たぶん大丈夫だろう。下町の商売人は、助け合ってやってきたんだ。困ってると言われたら、協力するさ」
心の広いことを言ったマスターだが、その直後に、「実乃里ちゃんはうちのバイトだ。毎度のことなら断るよ」と小声で呟き、カウンターへ引き返していった。
マスターの小声を聞き取れなかった極楽おばさんは、嬉しそうにしている。
「さあ、早く行かなきゃ。ご馳走さん。実乃里ちゃんはゆっくり仕度しておいで。一時までに来てくれたらいいから」
(十三時までって、あと十分ほどしかないけど……)
今日は食べ終えた食器を下げてくれずに、極楽おばさんは急ぎ足でカウンターへ。
マスターにお代を払って、すぐに帰っていった。
実乃里は空いた食器をトレーにのせて下げつつ、ドアベルの鳴り止んだガラス扉をチラリと見る。
(今日は会えずじまいか……)
誰に会えないのかというと、龍司である。
彼が猿亘組の若頭だと知り、恋破れたような気持ちでいる実乃里だが、素敵だと思う心は健在である。
龍司は週に二、三度やって来て、決まって卵サンドを注文する。
モーニングタイムの来店がほとんどだが、たまにランチの終わり頃に現れることもある。
その注文もやはり卵サンドで、よほどの好物だと思われた。