極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
番台は男湯と女湯の間にあり、半畳ほどのスペースだ。

ふかふかの座布団に座っている実乃里は、番台のカウンター内を覗き込む。

狭いスペースに色んなものが詰め込まれている中で、お茶セットと菓子、女性週刊誌が目についた。

実乃里はあくびをしながら熱々の緑茶を入れて、かりんとうをかじり、週刊誌を引っ張り出す。

読書や飲食したいわけではなく、なにかをしていなければ眠ってしまいそうだからである。


時刻は十五時五分。

女湯に高齢の客がふたり入っており、男湯に客はなし。

銭湯が賑わうのは日暮れからだろうから、今はやることがなくて退屈だった。


(玄関と脱衣所とトイレ掃除はさっきやったし、頼まれていないけどドリンクの補充もした。後は極楽おばさんが帰ってくるまで、ひたすら座っているだけ。なんてつまらない……)


今日、何度目かの大あくびをしたら、玄関の引き戸がガラリと開けられ、客がやってきた。


「こんにちは。いらっしゃいま……あっ」


実乃里が驚いた理由は、その客が金髪ソフトモヒカンの小太りの若者であったからだ。

彼は猿亘組の下っ端ヤクザの、一尾だ。

一尾だけではなく、続いて茶髪で色黒、細身体型の二山も入ってくる。

十日前に組事務所内で見た、もうひとりの下っ端構成員もいた。

七分刈りの黒髪に剃り込みを入れ、顎には短い髭を生やし、なんとも人相の悪い若者である。

三村(みむら)、まとめて払っとけ」と一尾が剃り込みの男に命じているので、三村という名の彼が一番の下っ端なのだろう。


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