極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
そして一拍置いて、最後に入ってきたのは、黒いワイシャツ姿の龍司であった。

タオルを入れた洗面器を小脇に抱えていても、気怠げな表情がなんとも艶っぽい。

眠気が一気に吹き飛んだ実乃里は、胸を高鳴らせ、番台カウンターの中で小さくガッツポーズをした。


(今日は会えないと思っていたのに、まさかこんなところで会えるなんて……極楽おばさん、ありがとう!)


「あれ、ロイヤルの姉ちゃん。なにやってんだ? 極楽ババは?」

そう問いかけてきたのは、一尾である。


「おばさんは外出中で、私が番台を頼まれたんです」


手短に事情を説明する実乃里の頬は、若干引きつっている。

一尾と話すのはピザの配達以来なのに、彼はすぐに実乃里が誰であるかに気づいた。

極道の記憶に自分の顔が刻まれてしまったことは、喜べない。

けれども、「若頭、ロイヤルの姉ちゃんがいますよ」と龍司に向け、実乃里の存在をアピールしてくれるのはありがたい。


とびっきりの笑顔を浮かべた実乃里は、思い切って龍司に声をかける。


「龍司さん、こんにちは。今朝はロイヤルにいらっしゃいませんでしたね」


それは何気ない会話の切り出し方のように感じていた実乃里だが、黒い革靴を脱いで下駄箱にしまおうとしている龍司に横目で睨まれた。


「なぜ俺を下の名前で呼ぶ?」


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