極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
そう問われ、実乃里はハッとして慌てる。

マスターが彼をそう呼んでいるので、実乃里もつい同じようにしてしまった。

これまで心の中では何度も彼の名前を口にしてきた実乃里だが、実際に呼びかけたのは初めてで、彼の方としては唐突に感じたのだろう。

疑問に思われても、無理はない。


「すみません、マスターの真似をしてしまいました。あの、なんとお呼びすればいいですか?」


気安く下の名前で呼ぶなということかと思い、問いかけたのだが、龍司は「好きなように呼べばいい」と淡白に答えた。

なぜ下の名前で呼んだのかという疑問が解ければ、それでよかったのかもしれない。


彼はそれ以上実乃里に構うことなく、男湯の暖簾をくぐる。

下っ端たちは龍司に続き、実乃里は番台に置かれた小銭を数えて、レジにしまった。


(クールなところも私好みなんだけど、もう少し会話を続けてくれないかな。これじゃ親しくなりようがないよ)


寂しい気待ちになった実乃里は、その直後におかしなことを考えてしまったと気づく。


(極道の若頭と親しくなっては、いけないよね。私、なに考えてるんだろう)


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