極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
番台を下りて脱衣所を歩き、コクリと喉を鳴らしてガラス戸を開けた。

彼らの姿を見ないようにと、隅に積まれた黄色い銭湯桶に視線を向け、「一尾さん、持ってきました」と声をかける。

しかし、応答がない。


「やったな、この野郎。食らえ」

「ギャー、冷てー! 一尾の兄貴、それは卑怯っす」

「逃げんな、三村。俺と戦え」


三人分のはしゃいだ声が響き、実乃里はそっと洗い場の方へ視線を向ける。

すると、腰にタオルを巻いた下っ端たちが楽しげに遊んでいた。

水鉄砲を持っているのは三村で、冷水入りの洗面器で水を撒いて応戦しているのは一尾だ。

二山は一尾の見方をして、十個ほどの黄色い桶にせっせと水を溜めている。


一方、龍司はひとり静かに、肩まで湯船に浸かっている。

後頭部を湯船の縁に預けて、富士山の描かれた銭湯絵を眺めているようだ。

彼の裸を見ることができず、実乃里はホッとしたような残念なような心持ちである。


湯けむりでほんのりと霞む中を、一尾の方へ近づいていった実乃里は、「シャンプー、ここに置いておきますね」と声をかけた。

一時休戦し、「悪いな」と体をひねるようにして振り向いた一尾を、二メートルほどの距離を置いて視界に入れた実乃里はハッとする。


(刺青、結構、広範囲に入ってるんだ……)


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