極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
若頭ならば、一尾のものより圧倒的な彫り物が施されていそうな気がしていた。

それなのに見えている範囲の肌は滑らかな小麦色で、逞しい筋肉質の魅力的な体つきであるだけだ。


「龍司さん、刺青をされていないんですね……」


疑問がうっかり口をついて出て、龍司の視線に鋭さが増した。

余計なことを言ってしまったと気づいて焦る実乃里は、「ごめんなさい!」と謝ってから自分の口を塞ぐ。


龍司はなにも言わず、銭湯絵に視線を戻してしまった。

自分たちが強く叱られずに済んだことに感謝してなのか、眉を下げた実乃里を下っ端たちがフォローする。

「若頭は刺青できない体質で……」と、一尾が声を落として教えてくれた。


それによると、若い頃に墨を入れようとしてアナフィラキシーショックを起こし、死にかけたのだとか。

箔をつけるためにと刺青を勧めてくる者がいても、龍司はそう説明して断ってきたらしい。

アレルギーなら仕方ないと、相手方も納得してくれるそうだ。


「そうなんですか……」


もしかすると、真夏でもTシャツやタンクトップではなく、黒い長そでワイシャツの袖を折り返して着ている理由は、彫り物がないことを指摘されたくないせいではないだろうか。

実乃里が最初に思ったように、若頭なのに刺青がないことを不思議に思い、尋ねる者もいるのかもしれない。

その度にアレルギーについて説明するのは、億劫であろう。


< 42 / 213 >

この作品をシェア

pagetop