極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
店内は、ほぼ満席である。

注文を書き留めた実乃里が引き返そうとしたら、別のテーブル席から声がかかる。


「実乃里ちゃん、ご馳走さん。食後のコーヒー持ってきて」


調理場の方からは、「一番テーブルのランチBとオムライス、上がったよ」と洋子の声がして、カウンター裏からは会計を頼むとマスターに呼ばれた。

全てひっくるめて「はい!」と元気に答えた実乃里は、今日も時給以上の働きぶりを見せていた。


こうして今日も慌ただしくランチタイムが過ぎ去り、鳩時計が十五時を鳴いて知らせた。

この時間になれば、長居を決め込んでいる客が三人いるだけで、暇に感じるほど急に忙しさから解放される。

そうなれば実乃里の心に余裕ができ、頭に思い浮かべるのは龍司の顔である。


(昨日、モーニングに来てくれたから、今日は来ないかもしれない。でも、三日続けて来店した時もあったし、まだ会えないと諦めるのは早いかな……)


龍司への憧れが恋にならないように、かろうじて堪えることができているのは、下っ端たちの存在もあるかもしれない。

龍司を慕う彼らは最近、ロイヤルにもついてくる。

モーニングは決まって龍司ひとりだが、ランチの混み合う時間が過ぎた頃に四人で食べに来たことが三回あった。

龍司が静かに卵サンドを食べている傍らで、『よお姉ちゃん、この後一緒に銭湯行かね?』とからかってくるのは実乃里にとって迷惑だが、助かる面もある。


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