極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
マスターはいつもの営業スマイルを浮かべているが、なぜかその声には緊張が感じられた。
「ブレンドコーヒーひとつ」と客はマスターに注文し、カウンター前を通り過ぎて空いている最奥のテーブル席へ。
常連とまでは言えないが、たまに来店する客なのだろうか。
勝手知ったる様子で立てかけたメニューの裏に置いてある灰皿を引き寄せて、内ポケットから取り出した煙草に火をつけている。
実乃里はカウンター内に入り、グラスに氷と水を注ぎ、おしぼりと共にトレーにのせてつつ、小声でマスターに問いかけた。
「今のお客さんも、極道なんですか?」
男性客から滲み出る危険そうな雰囲気と、マスターの緊張から、もしや猿亘組の中でもかなり偉い地位にあるヤクザがお出ましになったのでは、と推測していた。
けれども周囲を確認するように視線を左右に動かしたマスターが、小さく首を横に振る。
コーヒーカップを温める作業をしつつ、実乃里に顔を近づけ、ヒソヒソと教えてくれる。
「杉谷さん。四十九歳だったかな。五年ほど前からたまに来る。極道じゃなく、“組対”の刑事だ」
組対と言われて首を傾げた実乃里だが、過去に見た刑事もののドラマの中に、その言葉が出てきたことを思い出した。
警視庁組織犯罪対策部、通称、組対。
暴力団などの組織犯罪を捜査する部署だ。
正義の味方というべき職業のはずなのだが、杉谷の雰囲気は極道以上に冷たく危険である。
「ブレンドコーヒーひとつ」と客はマスターに注文し、カウンター前を通り過ぎて空いている最奥のテーブル席へ。
常連とまでは言えないが、たまに来店する客なのだろうか。
勝手知ったる様子で立てかけたメニューの裏に置いてある灰皿を引き寄せて、内ポケットから取り出した煙草に火をつけている。
実乃里はカウンター内に入り、グラスに氷と水を注ぎ、おしぼりと共にトレーにのせてつつ、小声でマスターに問いかけた。
「今のお客さんも、極道なんですか?」
男性客から滲み出る危険そうな雰囲気と、マスターの緊張から、もしや猿亘組の中でもかなり偉い地位にあるヤクザがお出ましになったのでは、と推測していた。
けれども周囲を確認するように視線を左右に動かしたマスターが、小さく首を横に振る。
コーヒーカップを温める作業をしつつ、実乃里に顔を近づけ、ヒソヒソと教えてくれる。
「杉谷さん。四十九歳だったかな。五年ほど前からたまに来る。極道じゃなく、“組対”の刑事だ」
組対と言われて首を傾げた実乃里だが、過去に見た刑事もののドラマの中に、その言葉が出てきたことを思い出した。
警視庁組織犯罪対策部、通称、組対。
暴力団などの組織犯罪を捜査する部署だ。
正義の味方というべき職業のはずなのだが、杉谷の雰囲気は極道以上に冷たく危険である。