極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
抱えている丸いプラスチックのトレーを、実乃里は思わず目の下まで引き上げる。

それまで陽気にしていた下っ端たち三人は、テーブル席に向かおうとして杉谷の存在に気づき、一斉に足を止めた。

そして三人とも厄介者がいたとばかりに顔をしかめ、回れ右をする。


彼らの二歩後ろにいる龍司の視界を妨げるように、三村がわざとらしいあくびをして両手を突き上げた。

二山は突然、「今日はヤングジャンピングの発売日じゃん。今すぐ買いに行かないと」と言い出す。

漫画雑誌のヤングジャンピングは、ランチに来た客が置いていったので、マガジンラックに入っているのだが、それを手に取る気はないようである。

一尾は手のひらをドアへ向けてペコペコと頭を下げ、なんとか龍司を出口へ誘導しようとしていた。


「若頭、そういうことで、今日のところは出直しましょう」


スポーツ新聞の見出しに目を止めていた龍司は、まだ杉谷の存在に気づいていないのか、「お前ら、どうしたんだ?」と眉を上げて問いかける。

すると、「よお、逢坂。久しぶりだな」と杉谷が声をかけてしまった。

煙草の煙を前方に吐き出し、からかうように低く笑う。


「一尾に二山に三村、逃げなくてもいいだろ。ひとりきりで寂しかったところだ。相席どうだ?」


< 51 / 213 >

この作品をシェア

pagetop