極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
衝突は避けられないのかと悟った様子の下っ端たちは、片手で目を覆ったり、ため息をついたりしている。

龍司はというと、急に険しい顔をして、鋭く杉谷を睨みつけた。

「若頭、まずいですって」と止めようとする一尾の手を振り払い、スポーツ新聞を落として踏みつけると、龍司はツカツカと杉谷に歩み寄る。

コーヒーカップが音を立てるほどに右手のひらをテーブルに叩きつけ、敵意むき出しで杉谷を威嚇する。


「またお前か。嫌がらせにきたんだろ。組に用があるなら令状を取ってこい。なければ失せろ。次にこの辺りをうろついたら、殺すぞ」

「随分、嫌われたもんだな。先代若頭の八田部を俺が逮捕しなかったら、お前はいつまでも奴の下にいただろうに。俺に感謝の気持ちはないのか?」

「あるわけないだろ。俺は八田部さんを慕っている。勤めを終えて戻ったら、この役目を返すつもりだ」

「極道の兄弟愛は美しいなぁ。俺のクソ生意気な部下どもに爪の垢を飲ませてやりてぇ。八田部が出るまであと五年か。それまで若頭でいられるように、せいぜい大人しくしてろよ。悪さしたら、怖いおじさんが令状持って迎えに行くからな」


険悪な雰囲気の中、杉谷だけはあくまでもからかいの態度を崩さず、おかしそうに笑っている。

下っ端たちは押し黙り、龍司はギリリと歯噛みしていた。

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