極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
自分の作った卵サンドを、龍司に食べてもらいたい。

クールで少し危険な香りのする素敵な容姿を堪能したい。

それだけで満足していたいのに、龍司の謎めいた部分まで深く知りたくなる実乃里であった。


時刻は十七時になり、実乃里はエプロンを外した。

半袖ブラウスとキュロットパンツという格好で、両腕に抱えるほどの大きさの風呂敷包みを持ち、「行ってきます」とマスター夫妻に挨拶する。

風呂敷の中はオードブルだ。

楕円形のプラスチックの皿に、唐揚げやポテト、アメリカンドッグに海老フライや枝豆などが盛り付けられている。

それほど重くはないが、持ちにくい。

これは徒歩五分ほどの場所にあるスナックからの注文で、実乃里が配達に行かされるのだ。


マスターにドアを開けてもらって外に出ると、空は茜色。

建物の影が東へ長く延びている。

気温こそまだ涼しくならないが、夕暮れは早まり、秋はすぐそこだと知る。


オードブルを崩さないようにと、実乃里は慎重に道を行く。

着いたのは三階建ての間口の狭いビルで、その一階のスナックが配達先だ。

紫色の置き看板には、“スナック深雪(みゆき)”と書かれている。


ここの経営者で、深雪ママと呼ばれる三十八歳の女性も、ロイヤルの常連客だ。

とは言っても、ロイヤルに来店するより配達の注文が多く、実乃里がオードブルを手にこの店に来るのは、これが四度目である。


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