極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
実乃里が注文を伝えると、「悪いけど、やってくれる?」と洋子からヘルプコールが出された。

暖簾をくぐって小さな調理場へ入れば、洋子はスパゲティナポリタンを炒めている最中である。

その注文を取ったのは、実乃里ではなくマスターだ。


朝はモーニングセットとサンドイッチしかメニューにないというのに、わがままを言う客もいる。

マスター夫妻はそれを断らず、笑顔で応じてしまうから、小さな店でもバイトを雇わねばならないほどに忙しい。

しかしながら、常連客にそういう特別感を与えるところが、長年愛される理由なのだろう。


いつか自分のカフェを経営するための学びとして、実乃里はそれを心に書き留めた。

そして、好みの男性客のために、自らが卵サンドを作ることができるチャンスに喜んでいる。


(美味しいと喜んでもらいたい。あの人はどんな風に笑うのかな。眉間に皺を寄せている彼を、笑顔にさせたいな……)


この店の卵サンドは、ゆで卵を粗めに潰して、塩胡椒とマスタード、マヨネーズで味つけしたものを、耳を落とした食パンに挟んだシンプルなものだ。

小学生でも作れそうな簡単料理だが、やけに気合いの入った顔をした実乃里は、ステンレスのボウルに卵黄と酢、塩とレモン汁と調理油を入れて、ハンドミキサーで混ぜ始めた。

隣でフライパンを揺すっていた洋子が、驚いて実乃里を見る。


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