極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
思い当たったのは、ひと月ほど前の出来事。

ピザの配達で猿亘組の事務所を訪ねた時、一尾のスマホに近所のゲームセンターからヘルプコールが入った。

暴力的なふたり組の客が来て困っているという話に、斑目本部長が『また半グレのガキどもか』と言っていた。

半殺しにしてこいとの本部長命令に、一尾たち下っ端三人が拳銃を持って出かけようとしたら、龍司が止めたのだ。

たったふたりなら自分だけで充分だと言った彼は、一尾たちに待機を命じ、ひとりで出ていった。


(このふたりがゲームセンターで暴れた迷惑客で、やられた相手というのは龍司さんなんだ……)


実乃里の予想は当たっているようで、アロハシャツの男が「猿亘組の逢坂の野郎、絶対許さねー」と口にし、バス停の時刻表に八つ当たりする。

右拳で殴りつけてから、「いってー! 治ったばかりなのに」と自分にツッコミを入れており、滑稽であった。

彼らの二メートルほど後ろにいる実乃里は、頬を膨らませる。


(龍司さんに文句があるようだけど、感謝すべきでしょう。拳銃を持った一尾さんたちが対応に向かっていたら、骨折じゃ済まなかったのに)


きっと龍司は手加減してあげたのではあるまいか。

マスターから五年前の龍司の武勇伝を聞いたばかりなので、実乃里はそのように思っていた。

それなのに半グレの男たちは、仕返しの相談を始める。

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