極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
積まれた資材の陰になっているので、壁の破れ目はよく見えないが、出られるとわかって実乃里はホッとした。

二山が現れたということは、きっと一尾と三村もどこかにいるのだろう。

龍司はまだ戦闘の最中にいるが、彼ひとりではないのなら、きっと無事に切り抜けられると心配も和らいだ。


二山は縄を解いてくれて、実乃里は数時間ぶりに自分の手を見ることができた。

縛られた縄の跡がついて、手首が赤くなっている。

「行くぞ」と身を屈めたまま移動を始めた二山は、思い出したように余計なことを付け足す。


「姉ちゃんが小柄でよかったよ。壁の穴から難なく抜けられそうだ。一尾の兄貴は、入ろうとして引っかかったんだ。あの腹はなんとかしないとマジヤベェ」


穴に腹がつかえてジタバタしている一尾を想像した実乃里は、プッと吹き出してしまう。

暴れている男たちはかなり騒がしいので、そのくらいの声では届かないはずなのに、リーダー格の男に気づかれてしまった。

彼は手下たちに戦わせて、ひとりだけ数メートル下がった安全地帯に立っている。

だから実乃里にも注意を払うことができたのかもしれない。


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