極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「み、実乃里ちゃん……?」
隣のテーブル席の常連客のおじさんが、不気味なものを見てしまったというような顔で恐々と問いかけてくる。
けれども回想中の実乃里は生返事をしただけで、にやけるのをやめなかった。
そんな実乃里の意識を引き戻したのは、ドアベルの音だ。
龍司が来店したのではないかと期待してガラス扉を見た実乃里は、直後に笑顔を引きつらせる。
現れたのは龍司ではなく、杉谷であった。
杉谷は半月ほど前、実乃里が配達に出かける前に来店し、龍司を挑発して怒らせた組対の刑事である。
「いらっしゃいませ……」
この前と同様に、くつろいでいた常連客は会計を済ませてそそくさと帰ってしまい、マスターと洋子は緊張している。
それを感じていないのか、それとも気にしない性分なのか、杉谷はゆったりとした歩みで奥の三番テーブルの席に着いた。
チラリと腕時計に目を遣ってから、灰皿を引き寄せて煙草をふかし始める。
実乃里も緊張しながら、水とおしぼりを出し、「ご注文をどうぞ」と声をかけた。
「俺にトレーをぶつけたお嬢ちゃんか。この店のバイトにしては、長続きしてるな」
「この前は大変失礼しました。反省しています」
「いや、怒ってはいないさ。気にすんな。ブレンドコーヒー」
「はい、かしこまりました」
隣のテーブル席の常連客のおじさんが、不気味なものを見てしまったというような顔で恐々と問いかけてくる。
けれども回想中の実乃里は生返事をしただけで、にやけるのをやめなかった。
そんな実乃里の意識を引き戻したのは、ドアベルの音だ。
龍司が来店したのではないかと期待してガラス扉を見た実乃里は、直後に笑顔を引きつらせる。
現れたのは龍司ではなく、杉谷であった。
杉谷は半月ほど前、実乃里が配達に出かける前に来店し、龍司を挑発して怒らせた組対の刑事である。
「いらっしゃいませ……」
この前と同様に、くつろいでいた常連客は会計を済ませてそそくさと帰ってしまい、マスターと洋子は緊張している。
それを感じていないのか、それとも気にしない性分なのか、杉谷はゆったりとした歩みで奥の三番テーブルの席に着いた。
チラリと腕時計に目を遣ってから、灰皿を引き寄せて煙草をふかし始める。
実乃里も緊張しながら、水とおしぼりを出し、「ご注文をどうぞ」と声をかけた。
「俺にトレーをぶつけたお嬢ちゃんか。この店のバイトにしては、長続きしてるな」
「この前は大変失礼しました。反省しています」
「いや、怒ってはいないさ。気にすんな。ブレンドコーヒー」
「はい、かしこまりました」