極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
会釈して引き返し、カウンター内で黙り込んでいるマスターに注文を伝えた実乃里は、ガラス扉を見た。

気にするなと杉谷に言われたが、トレーをぶつけたこと以外で、気にせずにはいられないことがある。

龍司が来店したら、また一波乱ありそうで、ハラハラしていた。


もし来るとしたら、龍司ひとりだろう。

長時間居座って帰ったばかりの一尾たちは、ついてこないと思われる。

そうすると龍司を止める役がいないわけで、杉谷が挑発すれば殴ってしまうことも予測できた。


(どうか今日は来ませんように……)


会いたいはずの龍司が来店しないように祈らねばならず、実乃里は理不尽さを感じている。

他に注文する客がいないため、ブレンドコーヒーはすぐにできあがり、実乃里が杉谷の元へ運ぶ。

「ごゆっくりどうぞ」と心にもないことを言ってカウンター裏まで引き揚げた実乃里は、ふと、あの時の疑問を思い出した。


< 83 / 213 >

この作品をシェア

pagetop