極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
暴力団の入店を断るステッカーは、あちこちの飲食店で見かけたことがある。

それの刑事バージョンを作ればいいのではないかと、真面目に提案していた。


杉谷はロイヤルにとってありがたいお客様ではない。

龍司たち猿亘組の組員を挑発するし、常連客は巻き込まれたくないと逃げ出す。

実乃里たち従業員も、ヒヤヒヤさせられるのだから、迷惑客と言ってもいいのではないだろうか。


その提案に、マスターと洋子は顔を見合わせ、吹き出した。


「私は真面目に考えたんですけど」と実乃里が口を尖らせれば、「馬鹿にしたわけじゃないのよ」と洋子がなおも笑って弁解する。


「実乃里ちゃん、すっかりこの下町に染まったと思ってね」


カウンター裏の流しで、コーヒーカップを洗いながら、マスターも明るい声で言う。


「普通の店は、暴力団排除のステッカーを貼るだろうな。だが、この町は昔から猿亘組と仲良くやってきた。それを実乃里ちゃんがわかってくれて、嬉しいなぁ」

「はぁ……」


なんと返事をしていいかと、実乃里は困り顔になる。

極道は悪だと完全否定していたはずだったのに、マスターたちが言うように実乃里の考え方が変わってきていた。

それはあくまでも猿亘組の、龍司たち一部に関してであるが、彼らを怖いと思う気持ちがかなり薄れていることは確かである。

それは、いいことではないだろう。


(この町にいると、正義と悪の境界線が揺らいでしまいそう。もうこの喫茶店で学べることはないし、ブラック待遇でもあるし、アルバイト先を変えた方がいいよね……)


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