極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
秋晴れの空の下を、ピザが冷めないうちにと早足で進み、実乃里は目的のビルに到着する。

築五十年は経っていそうな黒ずんだコンクリート壁の、四階建ての鄙びたビル。

定員六人までの小型エレベーターで四階に上がり、細い廊下を進む。

この階には三つのオフィスが入っているようで、伊藤商会はふたつ目のドアであった。

すりガラスの明かり取りが昭和レトロな雰囲気を醸すグレーのドアをノックして開け、声をかける。


「喫茶ロイヤルです。ピザの配達に参りました」


机が向かい合わせに八つと、コピー機やオフィスラック、応接用のソファセットが見える十五畳ほどの明るい空間。

そこには社員六人がいて、それぞれのノートパソコンに向かっていた。


実乃里と同じくらいの年齢の、事務員風の制服を着たOLふたりが対応に出てくれる。

「待ってました!」と声を弾ませた女性に、実乃里は見覚えがあった。

先週末、恋人と思われる青年とふたりでロイヤルに来店し、ピザとナポリタンを分け合って食べていた客だと思い出す。

きっとロイヤルのピザを気に入ってくれて、近所なら配達もしているという話をどこかで聞き、注文してくれたのではないだろうか。


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