極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
実乃里の問いかけに、龍司と杉谷は顔を見合わせて苦笑し、杉谷が仕方ないと言いたげな顔をして頷いている。

ということは、あれも龍司を猿亘組に潜入させるための大掛かりな芝居であったということだろう。


「龍司、俺たちもまだまだだなぁ。どうする、引き揚げるか? これまで集めた証拠だけでも、本部長の斑目を二十年は閉じ込めておける」

「斑目だけなら、五年もかける必要なかったでしょう。勘弁してください。組長の首まであと一歩なんです」

「それなら、このお嬢ちゃんはどうするんだ?」

「口を塞ぎますか……」


恐ろしいことを言い出した龍司が、真顔で実乃里に視線を流す。

その目に殺気は宿っていなくても、実乃里は彼を恐れて後ずさり、給水タンクに背中をぶつけた。


「怖がらせんなよ。可哀想に。なぁ?」


杉谷のその言葉に同情はまるで感じられないが、実乃里が何度も首を縦に振れば、龍司は視線を外してくれた。


「念入りに口止めしといてください。俺は事務所に戻らなければならないんで」


淡白な声でそう言って実乃里に背を向けた彼は、給水タンクの裏へと歩き出す。

姿が見えなくなると、すぐにドアの開閉の音が聞こえた。


杉谷とふたりきりにされた実乃里は、居心地の悪さを感じる。

刑事ならば乱暴を働かないとは思うけれど、口止めがどのようなものかわからず、不安に思う。

太陽は遠くのビルの隙間に見えており、そろそろ西の空が茜色に染まる頃である。


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