極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「あの、誰にも言いませんから、私もそろそろお店に戻らないと……」


恐る恐るそう申し出た実乃里だが、「この時間のロイヤルは空いてるだろう。もう少し付き合え」と有無を言わさぬ強い口調で言われてしまった。


彼は新しい煙草を出すと、ゆっくりとした動作で火をつけ、うまそうに煙を吐き出す。

煙が風に溶けて消えたら、「昔話をしてもいいか」と実乃里に問う。


桃太郎やかぐや姫でないのはわかるが、杉谷の思い出話にも興味は持てず、できることなら遠慮したい。

けれども「龍司と出会ったのは、あいつが十七の頃だったな……」との始まりに、実乃里は急に聞く気になった。


(龍司さんの過去の話なら、ぜひ聞かせてほしい……)


龍司は母親とふたり家族で、物心ついた時から父親のいない家庭で育ったそうだ。

いや、父と呼ばされた男は複数人いた。

母親が離婚再婚を繰り返すからだ。

兄弟はなく、母親は龍司が家にいても平気で新しいパートナーと情を交わすタイプの、母性の薄い女性であった。

そのため龍司は中学生の頃からなるべく自宅に帰らないようにし、夜は不良仲間とつるんでいたという。

高校には進学したが、二年で中退。

不良グループに入り、改造バイクで暴走行為を繰り返し、警察にも何度も世話になっていたそうだ。


< 98 / 213 >

この作品をシェア

pagetop