極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
その頃、杉谷は所轄の生活安全課に所属していた。

非行少年の犯罪を担当していた杉谷は、暴走行為や喧嘩沙汰で、度々龍司を捕まえては、厳しく説教していた。

ある夜も、殴り合いの喧嘩をしていた龍司を署に連行し、傷の手当てをしてやりつつ、叱りつけようとした。

だが、その夜は思うところがあって、杉谷は怒鳴るのはやめた。

龍司の喧嘩っぷりは異常だ。

毎日のように喧嘩に明け暮れる理由が知りたいと思ったのだ。

龍司の目をまっすぐに見た杉谷は、静かに問いかける。


『このままだと、お前は死ぬぞ。やりたいこともやれずに、くだらない喧嘩で犬死だ。それでいいのか?』


それに対して龍司は、初めて本心を打ち明けた。


『あんたにはくだらない喧嘩だろうが、俺には大事なことだ。仲間を守って死ねるなら本望。俺から喧嘩を取ったら、なんのために生きているのかわからなくなる。他にやりたいこともない』


龍司の冷えた瞳の中でわずかに燃えるのは、仲間を守るという彼なりの正義。

その時、杉谷は、龍司の心が見えた気がした。

龍司の居場所は不良グループ内にしかなく、彼が生を感じられるのは、仲間を守るための喧嘩をしている時だけである。

誰かを守り、その相手から必要とされたいという思いが、龍司を生かしているのだと杉谷は理解した。

それと同時に、正義感の使い所を間違えているとも思った。

この少年に真っ当な人生を歩ませるには…‥。

そう考えた杉谷は、『警察官になれ』と提案したそうだ。


『お前の正義は、今のままだと迷惑でしかない。正しい方へ力を使え。居場所がないなら、俺の家に来い。なんのために生きているのかわからないなら、俺のために生きろ。俺の手足となって働き、悪を成敗して俺に手柄を取らせろ。悪くない話だろ?』


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