嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
緋色の反応を見て、面白そうに微笑みながら、泉は緋色の耳元に顔を寄せた。
彼の吐息と、甘い香りを感じてしまい、緋色は一気に顔を赤く染めてしまう。
先ほど抱きしめられた時以上に、ドキドキしてしまう。
「ちょっ………近いです………。」
「実は、俺………本も書いていて、白碧蒼(はくへきあお)という作家を知っていますか?」
「………え………白碧蒼………。」
「本名の漢字をただ色に直しただけの名前なんですけどね。ほんの1部の人しか僕が作家をしているのは知らないんですよ?」
「……………。」
「あの、もしかして知りませんでしたか?」
急に黙り込んだ緋色を、泉が心配そうに顔を覗き込む。すると、緋色は目をキラキラさせて彼に近づいたのだ。
「白碧蒼の白碧って、泉鏡花の作品から取ったんですか?」
「………え?」
「もしかして、泉さんの泉ってそこからきてるんですか?作品にもいろんな色の名前が出てきますけど、そういうのが好きなんですか?」
「ちょっ………落ち着いてください。」
先ほどとは全く違う緋色の様子に、泉は驚いている様子だった。けれど、そんな緋色を見て、泉は嬉しそうに笑った。
「もしかして、白碧蒼の本、読んでくれてたの?」
「え…………あ、はい………。その……実は、とても好きな作家さんの1人だったもので。つい………。」
緋色は自分が興奮しすぎていた事にやっと気づき、申し訳なさそうにしながら泉の顔を見つめた。それ見て、泉はくくくっと笑った。
「あ………笑わないでください。」
「いや、ごめんなさい。何だか嬉しくて………。俺なんて全く有名な作家じゃないから、
好きな人がいるなんて嬉しくて。それに、内緒にしているから、こうやってファンの声を聞けるのがなかなかないから、すごく新鮮でした。」
「そんな事ないですよ。有名ですよね。あんなに長いシリーズ物を書いているのですから。」
「そう言って貰えると嬉しいです。」
少し照れ笑いを浮かべながら笑う彼は、どこか少年のように嬉しそうだった。