嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも



 緋色の瞳からはボロボロと涙がこぼれだした。
 事故に遭い、目を覚ました時を思い出すと今でも体か震える。
 何故病院で独り寝ているのか。
 何があったのか。
 目の前にいる人は誰なのか。

 誰も何も記憶ない世界に放り出された時の恐怖。


 そんな時に支えてくれる人。
 父親だけではない、愛し合った人がいたのならば、思い出せたのかもしれない。
 彼が教えてくれたのならば、恐怖に怯える事は少なかったかもしれない。
 
 もう1度好きになるぐらいに、緋色は泉を愛していたのならば、もっと早くから会いたかった。

 そんな想いは我が儘なのだろうか。


 緋色の必死の想いを聞いた泉は、悔しそうにしながら唇を噛んでいる。
 そして、自分へと伸ばしていた手を、彼は落とした。


 「……………もういい………。」


 緋色はそんな彼から逃げるように、歩いてきた道を走った。

 後ろから彼が呼ぶ声がしたけれど、それを無視して走り続けた。

 緋色はそのまま夜道をカツカツとヒールを鳴らし、涙をこぼしながら歩いた。


 「泉くんのバカ…………」


 彼への言葉を吐き出したけれど、彼への想いはまだ残っているのか、嘘をつかれたけれど、彼を信じたかった気持ちだけが残ってしまった。


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