嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも




 銀髪の男が緋色の頭を掴んだ時だった。
 彼の腕から「カチカチッ」という音が聞こえた。腕時計だ。今時、珍しい手巻き時計なのだろうか。秒針の音が鳴っていた。

 
 その小さな音が、緋色の頭の中に響いた。


 それと同時に、車の中に居た男が煙草をつけるためにライターの火を付けた。


 その火も一瞬だったはずなのに、緋色の頭ではゆっくりと揺れる火がずっと灯って見えた。

 

 暗い夜道。揺れる小さな火。時計の音。そして、男の人が自分に触れる感触。


 全てを感じたとき、緋色の脳内では、ある映像が映し出された。


 それは忘れていた記憶。

 忘れたかった過去。


 「あ、あ…………」
 「あ?どうした、お姉さん?そんなに怖がらなくても……………。」


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