嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「確かにあの事件の事がきっかけでフラッシュバックを起こしてしまって………苦しくて、悲しくて、思い出さなければよかったとも思ったわ。でもね、それだけじゃないの。思い出したのはそれだけじゃない。泉くんの事もだよ。」
「………俺の事………も?」
緋色の言葉に、泉は驚いた顔を見せた後、顔を歪ませ瞳の奥が揺れていた。
「ねぇ………泉くん。私が忘れてしまっていた事を全部教えて。私の記憶があっているか、確かめたいの。私が泉くんを忘れてしまっていた時に、あなたは何をして、何を思っていたのかを………。私に聞かせて欲しいの。」
「…………でも、ただでさえ一気に記憶を戻したのに………君の負担になるんじゃ………」
「ならないよ。泉くんの事だよ。知りたいの……… 」
緋色は彼に近づき、泉の顔をまっすぐに見つめてお願いをする。
泉は戸惑いつつも、嬉しそうに微笑んでいた。その顔が、緋色は何よりも嬉しかった。
「わかった、話すよ。………でも、かなり長い話になると思うよ。それでもいい?」
「うん。話してほしい」
「………君が忘れたかった事も、話していいの?」
「………話してほしい。思い出したって事は、今の私には乗り越えられる事だと思うから」
「…………わかったよ、緋色ちゃん」
そういうと、泉はベットに上がり緋色と同じように座った。
そして、頭を撫でながら「でも辛くなったらちゃんと言ってね」と、念を押してくれた。
緋色が頷くと、泉は1度目を閉じて何かを考えていた。
そして、ゆっくりと瞼を開けると、緋色と泉が出会ったところから話を始めてくれる。
その声はとても穏やかで、大切な物語を話しているかのようだった。