嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
そして、再会の日。
泉は彼女が仕事帰りによく行くという図書館で緋色を待った。
彼女はもう27歳になっている。緋色とは10年以上会っていないのだ。
今の彼女はどんな大人の女性になっているのか。会った時に、緋色だとわかるだろうか。
彼女を待つ間、大きな期待と不安が泉を襲った。けれど、不安など杞憂に終わる事になる。
ある女性が図書館に入って来た瞬間。
泉の視線は彼女に釘付けになった。
艶のある長い黒髪、白く透き通った肌に大きな瞳、ほっそりとした身体、そして綺麗なピンク色の頬と唇。
一瞬で彼女が緋色だとわかった。
きっと、街ですれ違ったとしても緋色だと見つけられる自信があった。それぐらいに、泉は彼女が特別に輝いて見えた。
緋色は返却カウンターでスタッフと何かを話した後に、図書館の奥へと向かった。
泉は彼女を追って、そちらに向かう。
彼女が向かったのは海外作家のコーナーだった。そして、ファンタジー小説の棚に向かい、ジッと棚を見つめていた。
緋色はその近くに向かい、本を探すふりをして彼女の様子を伺った。緋色の横顔は、とても楽しそうで棚から本を抜いて見ては、嬉しそうにページを捲っていた。
泉は、思わず「可愛いな」と思ってしまった。そして、とても嬉しかった。昔の記憶を失くしたはずの彼女が昔と同じようにファンタジー小説を好きでいてくれている。それは失った過去とも同じなのだ。
記憶がなくなったとしても、やはり緋色は緋色なのだ。そう思えた。