嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも




 「何はともあれ、まずは家まで送ります。緋色さんの怪我も心配ですし、いつまでも足袋のや着物のままでは疲れてしまうので、移動しましょう。」
 「あ、待って自分で歩けるので………。」
 「タクシー乗るまでは抱っこしますよ。あ、それともおんぶがいいですか?」
 「…………抱っこでお願いします。」


 緋色が拒否する前に、泉はすでに緋色を抱き上げており、やはり彼は強気で頑固なのかもしれないと、緋色は改めて思った。




 そのまま有無を言わせず、タクシーを見つけるまで泉は緋色を抱っこをして歩き、また道行く人たちの注目の的になっていた。もちろん、空手選手だと気づく人もおり、泉は声を掛けられる度に笑顔を返していた。

 タクシーに乗って移動する時も、彼は優しかった。「傷は痛みませんか?」や「暑かったですよね。体調は大丈夫ですか?」と聞いてくるのだ。
 そんな彼にどう対応していいのかわからずに、緋色は困った顔を浮かべたまま無難な返事を返した。


 そして、タクシーが緋色の住むマンション前に着いた。建物の前に、緋色が降りると「緋色っ!」と呼びこちらに向かってくる男性が居た。黒のスーツを着こなし、少し白髪混じりの髪と髭を整えた長身の男性だった。見るからに紳士的な雰囲気がある人物だった。


 「あ、お父様…………。」


 緋色はばつの悪い顔を浮かべて、父親である楪望(ゆずりはのぞむ)を見つめた。望の顔には、少しの心配と怒りの顔を見せており、緋色はビクッとしてしまう。


 「どこへ行っていたんだ、緋色。見合いも途中で抜け出して………。心配していたんだぞ、緋色。」
 「お父様………申し訳ございません。」
 「一体今までどこに居たんだ?どうして見合いを断った?」
 「それは………。」
 「楪さん。」



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