嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも



 それからは、毎日が幸せな日々だった。
 仕事帰りに食事に行く事もあれば、休みの日に泉の車で遠出のデートをする事もあった。緋色との時間はとても楽しくて、会えば会うほどに彼女に惹かれていった。

 付き合い始めてすぐに、彼女から「暗すぎるところや、時計の音、火は苦手なんです。」と、申し訳なさそうに言われた。もちろん、望から聞いていた事は内緒にしていたが、泉はそれを受け入れつつ、デートの中でそれらを目にしないように細心の注意を払っていた。





 そして、望にも彼女と恋人になれたと伝えると、彼はとても喜んでくれた。そして、ある事も教えてくれたのだ。


 「実は、緋色が誘拐された後から、彼女にボディガードをつけているんだ。」
 「え………」
 「もちろん、緋色を誘拐した男が出所した後からだよ。随分、彼女が気になっていたようだから、また事件が起こらないようにと思ってね。」
 「いつ出てきたんですか?」
 「数年前だ。あの男の会社は潰れたが、まだ金はあるだろうからね。緋色を調べようと思えば調べられる。これからも、ボディガードはつけるつもりだよ。ただ、泉くんも空手をやっているだろう。君とデートの時ぐらいはボディガードは取り止めてもいい」
 「そう、ですね………。では、デートの時ぐらいはゆっくりと過ごしてもらいます」
 「緋色には知らせてはいないが………ではそうしよう。私に連絡をするのもよくないだろうから、ボディガードの会社の連絡先を教えておこう」


 そう言って、泉にその情報を伝えてくれた。2人で過ごして欲しいという彼の配慮だろう。泉は彼に感謝しつつも、気が引き締まる思いだった。
 いつ誘拐男が緋色を見つけ出すかわからないのだ。油断出来ない。
 だからと言って、ずっと室内でのデートにするわけにもいかない。彼女には、楽しく過ごして笑顔で居て欲しいのだ。
 
 自分が緋色を守るしかない。
 そう、心に決めたのだった。




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