嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも




 「あ、こんな時間だ。……私、今日は帰るね」
 「え………」


 夕飯を食べ終わり、2人で後片付けを終えてコーヒーを飲んで一息ついていた時、緋色はそう言った。てっきり、今日は泊まっていくものだと思っていたので、泉は驚いて彼女の顔を見た。すると、緋色は困った顔を見せた。


 「大切な試合の前日にお泊まりは出来ないよ。集中したいだろうし………邪魔は出来ないよ」
 「そんな、邪魔なんて事ない。……泊まっていってよ」
 「………ううん。今日は止めておくわ。明日、かっこいい泉くんを見るのを楽しみにしているから」
 「わかった………じゃあ、駅まで送るよ」
 「ありがとう」


  そこまで彼女に言われてしまうと、無理強いは出来ない。確かに試合のイメージトレーニングをしたり、準備をしたりする必要はあったのは事実だ。緋色の気遣いに感謝をしながら、泉は車のキーを手に取った。
 本当ならば、自宅まで送りたいところだが少し離れた距離にあった。そのため「試合前なのに」と言われるのはわかったので、近くの駅までと言った。それでも、あまり彼女はいい顔はしなかったけれど、許しが出たようだった。



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