嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
しばらく車を走らせ、到着したのは川の近くにある大きなマンションだった。一目でここが高級住宅だとわかる。
泉がそのマンションに入ると、緋色を見張っていたボディーガードが慌てた様子でこちらに駆けて来た。
泉はジロリとその男を睨んでしまう。彼女が連れ去られたのだ。優しく話しかけてやることなど出来るはずもなかった。
「緋色がいる部屋は?」
「それが、どこの部屋まではわからなくて。それに、ここはセキュリティがしっかりしてるので、中には入れないようで………」
ボディガードの男がたどたどしくそう言いながら、ちらりと視線を向ける。泉もその方向を見ると、マンションコンセルジュが、こちらを怪訝そうな目で見ている。
緋色は何となく話の意味を理解して、そのコンセルジュの男の方へと歩いていく。黒スーツを着た若い男は、警戒した表情のまま「こんばんは」と言った。
「さっき帰宅した、富田って男が女を連れていなかったか?あいつはどこの部屋だ?」
「すみません。そう言った事はプライベートな事なのでお伝え出来ません。」
固い表情のままその男が断りの言葉を泉に伝えた瞬間、泉はフロントの台を思いきり両手で叩きつけた。
ロビーにダンッという音が響く。
驚いたコンセルジュは後退りしようとするが、泉にシャツの首元を掴まれて、引き寄せられる。
泉はその男を近距離で睨みつけながら低い声を出した。