嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも



 泉は細い体の男を持ち上げて、そのまま玄関に投げつけた。男は強く腰を打ったのか、苦痛で顔を歪ませている。玄関のドアが開き、男はそのまま廊下に蹲っている。騒ぎを聞き付けて、周辺の住人がドアを開けて様子を見ている。

 泉は男を1度見ただけで、すぐに部屋の中へと向かった。
 どこの部屋も真っ暗だったが、甘ったるいお香のような香りが漂ってきた。
 リビングは、荒れ放題になっており食べたものや空き缶、雑誌などが散乱していた。そこには彼女の姿はなかった。その隣にもドアがあった。

 泉がドアを開けると、そこには探し求めていた緋色の姿があった。
 けれど、ドアが開いた瞬間、彼女は恐怖でガタガタと震えていた。目の焦点も合っていなかった。
 照明が消された部屋で蝋燭の火が何個も揺らめいている。その中央には、布が置かれており、そこに緋色は座らされていた。手首は太いロープで縛られている。
 そして、先ほど泉と別れたときに着ていた服ではなく、ほんのりと透けているベビードールを身につけていた。暗くて色はわからないが、柔らかい生地で裾や肩紐には繊細なレースが使われており、それが高価なものだと、すぐにわかる。


 「あ、あ………来ないで………」
 「緋色っ!」
 「っっ!?」


 泉が駆け寄り、彼女の体を抱きしめる。
 すると、緋色ではないようにとても冷たくなっている。まるで、本物の人形のようだった。



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