嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
5話「知りたいです。」
5話「知りたいです」
トントン拍子に進む時は、物事が上手くいったり、良い縁だと言われている。
もし、それが本当の事ならば、泉との縁は良い傾向なのかもしれない。
けれど、1日で結婚まで決まってしまうのは、あまりに急なような気がしてしまうのだ。
「お父様、待ってください。私はまだ結婚なんてしたくありません。私の気持ちを聞いてから決めてください。」
ゆらゆらと揺らぐ感情のせいで、自分の気持ちがわからなくなってしまった緋色は、もう1度、父に説得する事にした。
1度冷静になって考えたい。今すぐに結論を出す必要はないのではないか。そんな気持ちを父にぶつけた。
苦手な父とは話をする機会も少なく、緋色から父を避けている事も多かった。そのため、自分の気持ちを正面から伝える事は少なかったかもしれない。
けれど、望は緋色にいつも優しかった。父ならわかってくれるはずだ。
そんな甘い気持ちがあった。
「緋色。私はおまえに、あの見合いが大切なものだと伝えたのを覚えているかい?」
「………はい。」
「見合い相手は怒ってはいなかったが、緋色が出ていってしまったことで、何か自分が悪い事をしてしまったのかもしれないと、悲しんでいたよ。」
それを聞いて、緋色はハッとした。
自分の勝手な思いでお見合いの途中でただ抜け出してきてしまった。相手にはほとんど説明しなかった。それでは、相手はどうして緋色が嫌になってしまったのかがわからなかっただろう。
緋色の行動が人を傷つけた。
それを今さら知ったのだ。