嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「……………すみません。」
緋色は弱々しく返事をする。
この歳になって父に怒られてしまうのは、本当に恥ずかしかったし、情けなかった。
けれど、自分のした事が本当に悪いことだったと、緋色は自覚し反省をしていた。
いつかちゃんと謝らないといけない。そう思った。
「………これで相手が怒ってしまい、仕事も円滑にいかなくなったら、大変だったんだ。1つの縁が何よりも大切だというのを覚えておきなさい。」
「はい………。」
「お見合い相手には、私から伝えておく。相手を納得させるには、何か理由がいるのがわかるな?」
「…………だから、結婚相手を………。」
緋色は望の考えを理解して、恐る恐る望の顔を見つめた。
父が考えている事は、きっとこうだった。お見合い相手に、緋色は結婚したい相手がいた。それを知らずに父が勝手にお見合いを決めてしまったため、逃げてしまった。そう、説明しようと思っているのだと、理解した。
確かに、それだと相手は納得するかもしれない。
「……だが、緋色をその見合いのだけのために結婚して欲しいと思って言っているのではないんだ。泉くんはおまえにとって、本当にいい人だ。今、その理由がわからなくてもいい。だけど、きっといつか………この意味がわかるはずだ。………だって、緋色………おまえは………。」
「楪さん。」
何かを緋色に伝えようとした望を止めたのは、泉だった。
望と緋色は同時に彼の方を見る。
すると、彼は悲しげに微笑みながら、ゆっくりと首を横に振った。
「泉くん………。」
「楪さん。………いいんです。まだ、その時ではありません。」
「………そう、だったな。悪い。」
「……………。」
泉が何を話そうとしていたのかを望は理解しているようだった。
けれど、緋色には何もわからない。
2人の神妙な雰囲気に、ただ不安になる事しか出来なかった。