嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「緋色、今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。お見合いを引き受けてくれて、ありがとう。」
「お父様………いえ。こちらこそ、すみませんでした。」
「泉くんとの事は、緋色に任せるよ。…………2人で話し合ってくれ。」
そういうと望は、泉に挨拶をした後に停めてあった黒い車に乗り込んで颯爽と去ってしまった。
望が何を伝えようとしたのか。
緋色のその言葉が聞きたくて、車が行ってしまった後も、しばらくその道を見つめていた。
「緋色さん。家に戻ってください。楪さんも言っていましたが、いろんな事があって疲れているでしょうし。」
「え、えぇ………。」
緋色は戸惑いながら泉を見つめた。
すると、泉はクスクスと楽しそうに微笑み、緋色に視線を返してくれる。
「………緋色さん。今日助けたお礼にお茶をご馳走してくれませんか?」
「え………えぇ………。」
「………そんな、離れたくないみたいな顔されてしまうと、帰りにくいです。」
「なっ…………そんな顔してないです!」
「していましたよ。」
緋色をからかうのが楽しいのか、そういうとまた楽しそうに泉は笑った。
泉は、自分より本当に年下なのだろうか。そんな疑問さえわいてきてしまう。
「私服に着替えてくるから、待っててくれますか?」
「え、緋色さんのお部屋でいいですよ?」
「………ダメです。恋人でもない男の人を1人で入れるわけには………。」
「結婚するかもしれないのに?」
「………それはそう、だけど………。」
確かに泉の言う通り、恋人ではないけれど結婚の話しが出ている相手だ。
だったら、部屋に来ても問題ないのかもしれない。そんな風に思ってしまうから、泉の言葉は不思議だった。
「では案内してください。行きましょう!」
「ちょっ、ちょっと……だから、抱っこしなくていいですから。」
また、彼にひょいと抱き上げられてしまい、緋色は強引な彼の言われるがままに、なってしまっていた。それでも、先程よりも心が軽くなっているのだ。
本当に泉は不思議な人だった。