嘘つき旦那様と初めての恋を何度でも
「あの、緋色さんの方が年上なので、敬語は止めませんか?それに、結婚してまで敬語と言うのも、何だかよそよそしいですし。俺は、普段通りの緋色さんと仲良くなりたいです。」
「それはいいんですが……。普段通りの話し方というと、このままの事が多いので………。」
「友達と話すときとかはどうしてるんですか?」
「あまり友達もいなくて。昔、事故に遭ったみたいで。少し記憶が曖昧な事があるみたいで………友達の事もあまり覚えてないのです。」
緋色は少し前に事故に遭ったそうだ。
そうだ、というのも緋色はその事をほとんど覚えていなかった。
事故のせいで持っていたスマホも全て壊れてしまった。そのため、連絡先を知ることも出来なかった。緋色が事故に遭って見舞いに来てくれたのは、職場の同僚だけだった。
記憶が曖昧になる前も、一人で生きていたのだと緋色は思うと、妙に納得出来てしまった。それぐらいに、今の生活がしっくりときていたのだ。
仕事をして、大好きな本を読んで、寝る。それの繰り返しだったけれど、十分に満たされている気がしていたのだ。
「そうか………。じゃあ、ゆっくり慣れていけばいいと思います。俺が教えるので、敬語を使わなくてもいいですか?」
「はい。教えてください。」
そんな普通とは少し変わった生活を、泉はすんなりと受け入れてくれた。
それは、嬉しいことだったけれど、疑問が残ってしまう。記憶を失くしている事や、事故にあった事などは珍しいはずだ。それに彼ならば、心配してくれそうな気がしたのだ。
しかし、事故についても記憶をなくした事にも深く聞こうとはしなかったのだ。
彼は遠慮をして話さなかったのかもしれない。それが1番の理由のような気もするが、何故か泉の様子がよそよそしく感じてしまった。